ナラティヴ・セラピー

ナラティヴ・セラピーと外在化する会話④:脱構築に向かう足場かけとしての外在化

「外在化」を実践するときには、「人の悩みは、その人が属する社会やコミュニティとの関係の中で生まれるのではないか」という視点が必要なのだと思っています。この視点を持つことができると、カウンセリングの会話の中で扱う範囲が変わってきます。通常、カウンセリングはクライアントとカウンセラーが1対1で、プライバシーの確保できる空間で行われることが多いと思います。そうすると、カウンセリングの会話の中で扱う範囲は、自然と「クライアントとクライアントの周囲」くらいになってきます。しかし、「人の悩みは、その人が属する社会やコミュニティとの関係の中で生まれるのではないか」という視点を持ち込むことができたなら、カウンセリングで扱う会話の範囲は「その人の属する社会やコミュニティ」まで広がっていくのです。

外在化は、クライエントを文脈や周囲の環境とかかわる存在として特徴づけるからである。
―デヴィッド・パレ『協働するカウンセリングと心理療法』邦訳p227

人々の生活というのは複雑であり、選択肢として提供されている多様な「人となり」や主体的な位置づけから成り立っている。人々が異なる「人となり」を身にまとう時、それは多様なアイデンティティなのだと考えるほうが理にかなっている(Weedon,1987)。
―ジョン・ウィンズレイド、ジェラルド・モンク『ナラティヴ・メディエーション』邦訳p42

クライエントは文化内存在である。だからクライエントが考え、感じ、話し、行うことは、彼らが生きる文脈から切り離すことはできない。このことを考慮しないでカウンセリングのやりとりを理解することなど不可能である。
―デヴィッド・パレ『協働するカウンセリングと心理療法』邦訳p14

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クライアントの所属する社会やコミュ二ティにまで拡げた会話をする。そこにたどり着いたものの、どう実践するのかについては難しさを感じました。社会やコミュニティにまで会話の範囲を広げることで、その先に何があるのか。そもそも、何をどんなふうに外在化すれば社会やコミュニティにまで拡がる会話ができるのか。

こんなふうに考えていたとき、ひとつの文章と出会いました。以下に引用します。

しかし、『何が外在化されたか』ということは、ここではあまり重要ではないと思います。時に外在化と言う言葉は、単純に<問題を外在化するテクニック>のように理解されがちですが、私はどちらかというと、人を問題と見なさないというナラティヴ・セラピーの持つ哲学的姿勢と、そこから生まれてくる言語や言葉遣いのことであると思います。ある人を暗黙的にでも問題と見なさないようにすること、そのようなありきたりでわかりやすい結論を避けること、外在化された多様な概念の関係性の綾の中に位置づけることで、多くのことを理解し直す視点を提供する、そんな姿勢と言葉の使い方こそが大切なような気がします。
―国重浩一、横山克貴『ナラティヴ・セラピーのダイアログ』p345~346

特殊な言葉の使い方や姿勢をもって、社会への問題意識を置き去りにしない外在化が誘ってくれているのは、もう一度、ここにある問題をほぐして、いろんな角度から、いろんな関係性の中から眺めてみようという会話だったのです。

この文章を読みながら、私は、「脱構築」という言葉を思い浮かべていました。「脱構築」は、外在化によって誘われる会話の方向性のひとつであり、ここにある問題を、さまざまな角度、関係性から検討しなおすことなのではないか、と思います。

外在化は、「脱構築に向かうための、とても大切な足場かけ」なのです。「姿勢と言葉の使い方」によって足場をかけ、問題をさまざまな関係性の中で検討する機会を提供し、脱構築に向かうもの、として外在化を理解できたような気がしています。

ナラティヴ・セラピーにおいて、外在化はとても大切な哲学のひとつです。外在化は、会話の最初から最後まで、「ある人を暗黙的にでも問題と見なさない」という姿勢で貫かれ、問題を「多様な概念の関係性の綾の中に位置づける」ための足場かけなのです。

治療的会話の文脈においては、セラピストがこの発達の最近接領域の足場作りに大きく貢献し、そこへの参加者も集めることになる。この足場作りによって、人々は、既知の身近なものから漸増的に距離を置き、未知ではあるが知ったりやったりできそうな物事へ向かうことができるようになる。
―マイケル・ホワイト『ナラティヴ実践地図』邦訳p221

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